ペンホルダーの構造上の利点
ペンホルダーは3面ある
まずシェークハンドに勝る大きな特徴は、バックが表面と裏面で2面使えるという点です。
表面はプッシュやブロックに長けていて、裏面はドライブ打法に長けています。
それぞれに、シェークにない利点があるので参考にして下さい。
●バック表面の利点
POINTペンのバック表面の構造上の利点は
①ストライクゾーンが広い点(前でも打てる)
②ミドルが打ちやすい点
③同一面で全てをカバーできる点
④押すことができる点
です。
①「ストライクゾーンが広い点(前でも打てる)」の解説
ペンは体の近くから体の一番遠い場所(=肘が伸びきった場所)でも面を出し続けることができます。
そのため伸びきる直前までがストライクゾーンになります。
②「ミドルが打ちやすいこと」の解説
手の長さの分だけ体の右側でもバック面が出すことができます。
③「同一面で全てをカバーできる点」の解説
②のミドルが打ちやすいこととメリットが重なりますが、片面でバックからフォアまで処理できるため面を選ぶ迷いがなくなります。
特にミドルに来た時にラケットを下向きのままでも押し出すことができることは大きなメリットです。
④「押すことができる点」の解説
打球点(ボールとラバーの接点)よりも手が後ろにあるため。ボールを「押す」ことができます。
シェークハンドは打球点よりも手が前にあるため、バックハンドの全ては概念的には「引く」動きになります。
(「押す」と「引く」の違い)
●バック裏面の構造上の利点
POINTペンのバック裏面の構造上の利点は
①自然な形で面が下向きになる
②ボールの真横まで打てる
です。
①「自然な形で面が下向きになる」の解説
ペンホルダーはラケットを下から持つため、持った時からラケット面が下向きになるためドライブ打法に適しています。
シェークハンドは上から持つため、ラケット面を下向きにするために前腕を捻らねばならず、下向きにしやすいとは言えません。
②「ボールの真横まで打てる」の解説
ペンホルダーは自然な形でラケットの先端を下向きにすることができるため、ボールの真横を簡単に捉えることができます。
シェークハンドはラケットを下に向けることができないため、基本姿勢のままバックハンドでボールの真横を捉えることは出来ません。
POINT表面と裏面のデメリットはそれぞれありますが、表裏2面で補い合うことでデメリットはほぼなくなると考えて良いでしょう。
ペンホルダーはラケットが後ろにある
ペンホルダーの構造上の利点の一つに、フォアハンドの時、ラケットの先端が手のひらを下に向けた場合に後ろ方向にあることが挙げられます。
シェークハンドは手のひらを下に向けた時はラケットの先端が前にあります。
シェークに比べて先端が後ろにあることで、シェークと同じ体勢で打った場合シェークよりも後ろ側でも打つことが出来ます。
後ろ側でも打てるということでフォアのストライクゾーンが広がるため、ペンホルダーはフォアで広範囲をカバーしやすいのです。
シェークの可動域が体の真横から前方向に約90度であるのに対し、ペンの可動域は約135度あります。
よって、フォアハンドにおいてはペンホルダーの方が構造上、有利と考えることができます。
ペンホルダーはラケットを下向きに出来る
●裏面バックハンドにおける構造上の利点
ペンホルダーは、バックハンド通常の打球位置である胸の前にラケットがある場合、先端を下向きにすることができます。
それによって裏面バックハンドを打つ時に、外側を捉えるカーブドライブが容易に打つことができます。
特に回転量の多いツッツキを打つ場合にボールの外側を打つことで、ネットミスの危険性を下げることができます。
●台上技術における構造上の利点
ペンホルダーは肘を前方に完全に伸ばした状態でも面を前向きにすることができます。
これによって、前方のボールに対して手が伸びた状態でも、ツッツキ、フリック、ストップ、流しなどの台上技術を安定して行うことができます。
肘が伸びきっても様々な打球が繰り出せることに加え、先述した通りフォアハンドが後ろ側でも打てるため、前後の揺さぶりに非常に強いと考えることができます。
まとめ
・ペンホルダーはバックは2面使えるため、合計3面使えるという利点がある。
(シェークのシーミラー打法は現時点では非実用的と考えるため除外することとする)
・ペンホルダーはフォアハンドにおいて、ラケット先端の可動域が135度ある。
(シェークは90度である)
・ペンホルダーは、肘を伸ばした状態においてラケットの先端を下向きにでき、面を完全に立てることができる。
なぜペンホルダーが普及しないのか(余談)
これだけの構造的な利点があるにも関わらず、現代はシェークハンドが大多数を占めています。
トップクラスになればなるほど、ペンホルダーの割合が減ります。
この点について個人的な見解を載せたいと思います。
●幼少期にペンホルダーは持てない
まず、トップ選手を目指す子どもは2歳や3歳などから卓球を始めることが現代では一般化しています。
(一昔前は中学生からスポーツを本格的に始めるのが一般的で、中学生や高校生からスタートしても日本代表になる選手もいました)
2歳や3歳の幼児には、中国式ペンホルダーを持つことは、指の長さと握力の面から見て非常に難しいです。
日本式ペンホルダーの方がまだ持ちやすいですが、トップ選手を目指すのであれば中国式を持つべきだと思います。
3歳が両面にラバーを貼った中国式ペンホルダーを振り回すことはなかなか出来ません。
以上の理由から、幼少期から訓練を行えば、必然的にシェークハンドになってしまいます。
●ペンは指で持つ
また、仮にそれを容認した上でペンホルダーを持たせたとしても小学生くらいまでは握力がないため、同体格のシェークの子どもよりも強いドライブを打つことは中々できません。
なぜペンホルダーが握力が必要かと言うと、ラケットに接しているのが指だけで手のひらがラケットに接しないからです。
何か物を振り回す時に、手で握って振り回すのと、指でつまんで振り回すのでは、雲泥の差があることは想像に難くありません。
●握力の少ない女性には不向き
握力は強ければ強い程もちろん良いですが、30キロ以上あれば問題ないと思います。
文科省の平均データによれば男性の平均握力が30キロを超すのは13歳です。
しかし女性は一番高い値で約31キロですので大半の人は握力が30キロ以下であり、両面に裏ソフト特厚を貼った中国式ペンホルダーを扱うには向いていないと言えます。
●時間がかかる
以上の理由から、幼少期からペンホルダーを続けたとしても勝てるようになるには中学生くらいからということになります。
幼少期は軽いラケットや日本式でプレーさせたり、重さ対策を常にする覚悟があればもちろんクリアできる問題なのですが、2歳や3歳でまだ卓球を好きになるかもわからない段階の幼児に対し、相当な理由がなければペンホルダーを持たせる親はいないでしょう。
一昔前は卓球を始めるのが中学生以上であったし、ほとんどが片面の軽い日本式ペンホルダーであったためペンを選択する子が多かったのですが、幼児に中国式ペンホルダーを持たせるのは勇気がいるでしょう。
●カットも同じ理由
ペンホルダーと同様に、カットマンも非常に少ない戦型になりました。
カットマンもある程度手足の長さが必要で、身体的な構造上、なかなか小学生の内は勝てません。
桃栗三年柿八年という言葉になぞらえて、昔は「シェーク3年ペン5年、カット7年」となどという言葉がありました。
それだけカットマンは大成に時間がかかる戦型なのです。
●マンツーマンレッスン主流時代
身体構造上の問題に加え、指導の在り方にも大きな変化があったために、ペンやカットは減少しました。
一昔前は一人の指導者が多くの生徒を指導し、その中で優れた選手がトップ選手になっていたため、戦型は指導者と選手で決めるのが一般的でした。
選手は指導者の言うことを聞きますので、戦型はほぼ指導者が決めていたと言っても過言ではありません。
そのため、チーム全体が強くなるように様々な戦型を育成するという構造になっていたため、カットもペン表も粒高もいてバラエティーに富んでいました。
しかし今は、親が子どもの戦型やプレーを決定する時代になりました。
そして、親が気に入る指導者にマンツーマンレッスンを受けさせて強化するというスタイルが一般的になりました。
もちろん、一人の指導者が大勢を見るよりも効率的で、上達の速度が速いことは言うまでもありません。
―早く結果が出なければいけない。
親が指導者を選んで1時間当たり5000円程度のお金を払ってマンツーマンレッスンを受けさせる時代において、5年後あるいは10年後に結果が出るというのでは未来が不透明なため親はお金を出し続けることが出来ません。
だからこそ、幼少期から早く結果が出るシェークハンドを持たせるという選択が多数を占めるのは、現代において必然と言えます。
●早すぎる競争システム
卓球は、練習量や練習内容と同等かそれ以上に、練習環境が成長を左右するスポーツです。
要するに強い人と打たなければ強くなることが難しいスポーツです。
現在は、小学校低学年で既にナショナルチームが形成されており、アンダー12歳、アンダー10歳、アンダー8歳の3部門で日本卓球協会が組織的に強化体制を敷いています。
また、2018年からは日本卓球協会がアンダー7歳の強化合宿を後援しており、幼少期からの強化に更に力を入れています。
ここで選ばれた数十人は世界の頂点を目指し定期的に合宿を行い、各年代のトップクラス同士で練習することで相乗効果を得て更に強くなります。
逆に言えば、幼稚園や小学校低学年のうちにこのレールに乗らなければトップ選手にはなかなかなれないため、2歳や3歳からアンダー7入りを目指し頑張らなければなりません。
この活動自体は非常に素晴らしいことですが、ペンホルダーが育ちやすい環境とは言えないでしょう。
●中国のペン存続のためのルール
卓球最強の国・中国の場合は、高度な体育学校で修練を積みトップ選手を目指しますが、学校ですので長期的な視点で指導を受けることが可能です。
また、ペンホルダーを育成するコースを有する学校もあります。
そして、中国の実業団は最低一人ペンホルダーを在籍させなければならないというルールがあるため、ペンホルダーを志す選手も少なからずいます。
そのような仕組みによってペンホルダーという希少な戦型が、幼少期には不利であってもシニアで晩成することを信じ脈々と続いています。
最後に~ペンホルダーは素晴らしい~
生物は多様性を持たなければ滅びると言われています。
それは万物に共通するダイバーシティ理論であり、こと卓球にも通じることだと思います。
シェーク一辺倒の卓球界になって久しいですが、様々な戦型が群雄割拠する卓球界になることで、見る人もやる人も増え卓球界が発展するでしょう。
その卓球界発展の一翼に、この記事が貢献することを切に願います。
ピンバック: ペンホルダーのショートのグリップ – 卓球技術指導論