ここでは木材の一般的な基礎知識を紹介します。ラケット選びの一助になれば幸いです。
1、木材の構造について
木の幹は、髄(芯、樹心)、心材(赤身)、辺材(白太)という3つの部位に大きく分かれる。髄は幹の中心部にあり大抵の樹木では見分けることが出来ない程細い。(太いものでは1センチ以上あるものもある)
髄を取り巻くのが幹の内側の部分で心材と呼ばれ、幹に強度を持たせ樹を支えている。最早幹の成長には関与せずに色は濃い場合が多い。
その外側にあるのが辺材で、水や栄養物質を運ぶ役割を持つが、樹液の上昇は辺材の一番若い層で行われる。辺材は厚さが1センチから数センチの幅がある。木工芸では通常心材を使用し、髄と辺材は使用しない。
2、年輪について(早材と晩材)
幹の横断面には、木の組織が「年輪」あるいは「成長輪」と呼ばれる同心円状の模様がある。年輪は1年に1本できるので、それを数えることで樹木の樹齢を知ることができる。年輪の線にあたる濃い組織を「晩材」と呼び、線と線の間の色の薄い部分を「早材」と呼ぶ。早材の細胞は晩材よりも大きく粗い。熱帯域のように季節性がない場所では早材と晩材の区別がつきにくく年輪は不明瞭であるが、日本の樹種のほとんどは年輪がかなりはっきりと見分けることができる。
3、柾目と板目と木口
木口面とは木目の方向と直角に幹を切断した時に現れる面を指す。同心円の年輪が見られ、木口面を見ると、髄、心材、辺材、樹皮、年輪などを区別できる。木工芸家は、木口面を見ただけで幹の内部の木目の質を見分けることができる。幹の横断面には、その木が育った土地の気候や日照条件、風のあたり具合などを示す特徴が刻まれている。
板目面とは、年輪の接線方向に木材を挽いた時の切断面を指す。典型的な板目は、年輪が円錐型に重なるように現れる。それは樹木が円錐型であることに拠る。つまり、樹木の直径は樹冠(木の一番上)に向けて細くなるため年輪の層は樹心に向けて傾くので、年輪の層は地面と正確に垂直にはならない。
柾目面とは、丸太の軸を含む面で木を挽いた時の材の切断面を指す。柾目では年輪が1本1本直線模様となって現れる。柾目は板目よりも縮みや歪みが少ないことが特長である。特にオーク材などにおいては、太くて光沢のある放射組織が帯のように現れる。この美しい模様は英語で「銀杢」、日本語で「虎斑」と呼ばれる。
4、軟材と硬材(針葉樹と広葉樹について)
針葉樹のことを「軟材」、広葉樹のことを「硬材」と呼ぶ。字の通り、一般的に針葉樹は軽くて軟らかく、広葉樹は重くて硬い。ただし、バルサ材のように広葉樹でも針葉樹より遥かに軽い樹種も多々存在するので字の限りではない。
この二つの違いはその細胞の機能と構造にある。「柔組織」と呼ばれる栄養を貯蔵する役割を担う細胞があるが、針葉樹は軸方向(縦)に並び、広葉樹では放射方向(水平)に並ぶ。そして液体を運ぶ通水方法に大きな違いがあり、針葉樹は早材が液体を運ぶ役割を担うことに対し、広葉樹は導管(細孔)という通水専用の管が存在する。そのため広葉樹の大半は、木に無数にある穴である導管を肉眼で確認できる。
5、杢について
模様のある切り口を「杢」と呼ぶ。木の内部に不規則な組織構造、特異な色彩、組織の異常などがあり、それが華やかな模様となって表面に現れると杢になる。あるいは欠陥と見なされてしまうような特性が装飾的に利用され、木工の世界では高く評価される。そうした変性があると見なされる丸太は、適切に製材しなければ望み通りの木目を出すことができない。杢は世界中で高く評価されるが、西欧では薄い化粧板にして利用することが多いが日本では厚い板に挽かれることが多い。
縮杢、玉杢、葡萄杢、虎斑、孔雀杢、鳥眼杢、筍杢など数十種類ある。
※杢に関してはラケットの性能には関係なく、装飾としての豆知識です。
卓球ラケットに使われる木材
ラケットは一番真ん中の材を芯材や中芯、表面の板を上板、それ以外を添芯や添材、中板などと呼びます。
<針葉樹>
「軟材」と呼ばれ、基本的に軟らかい材だと考えて下さい。軟材は硬材に比べ塑性が強いです。
・檜
上板にも添え芯にも使われる、軟らかさと弾みを兼ね備えた高級材。木理は直通で均質。柔らかく非常にしなやかだが、強度も高い。
・柳
上板によく使われるカットマン用の飛ばない材。
・松
上板や添え芯に使われることが多いです。洋材名はスプルース。
<広葉樹>
「硬材」と呼ばれ、基本的に硬い材だと考えて下さい。
・リンバ
上板や添え芯に使われる一般的な材。適度な柔らかさと弾力を持つ広葉樹。加工が容易でラケットに最も使用される木材の一つ。肌目は粗く、ラバーと接着の相性も良い。硬さと重さがあるので薄く上板に使うことでよく弾むラケットが出来る。
・コト
上板に使われることが多く基本的にリンバより硬い。(ただ、産地や細かい品種によっては例外もあります。)
・ウエンジ材
上板に使われる。コト材より硬く、茶褐色が特徴の広葉樹。
・アッシュ
上板に使われる。コトと同じくらい硬く、比較的軽い材。木目がはっきりしているのでわかりやすい。和材のタモに酷似。
・エボニー
上板に使われる。ヨーロッパのラケットでよく使われる材です。和名は黒檀。黒くて硬くて重い。
・ローズウッド
上板に使われる。気乾比重が1.04と非常に重く、耐朽性が非常に高い。和名は紫檀。
・桐
芯材に使われる。軽くて適度に弾みもあり、価格も安い。
・アユース
芯材に使われる。桐よりも重量があり弾みが強い。ヨーロッパの硬質なラケットによく使われる。
・アバシ
芯材に使われる。アユースよりも軟らかい。
・バルサ
芯材に使われる。非常に軽いが強度が低い。
●ざっくりと色んな特徴や豆知識
・針葉樹は横から見るとシマシマ模様になります。全部硬材のラケットが主流ですが、添材だけ針葉樹を使ったラケットも多く、少し軟らかさを感じます。
・3枚合板+カーボン2枚の構成ですと、上板が大抵針葉樹です。芯材が厚くなる分、上板で軟らかさを持たせバランスを取っています。
・同じ針葉樹でも北欧の材は硬いので、スウェーデンのラケットなどは針葉樹を添え芯によく使いますが打球感はハードです。
・桐はタンスによく使われるように、よく湿気を吸います。桐のラケットを長く使うと湿気を吸って打球感や重量が少しずつ変化します。よく使い込まれたラケットが打球感が良いのはこれによるものと思われます。
・合板の枚数が多くなると接着剤の量が増え、重さや硬さが増します。例えば全て檜の7枚合板などもあり、全て軟材ですが接着剤と板厚で全体の硬さを演出し、軟らかさと弾みのバランスを取っているようなラケットもあります。
●卓球ラケットは育つ?
古いラケットは打球感がいいというのはよくある話ですが、この理由は樹脂の結晶化によるものかもしれません。
ギターやバイオリンなどの木材を使った楽器も、経年するほど音がよくなりビンテージの楽器などは新品時の数倍~数十倍、場合によっては億単位になることもあります。
楽器ではその理由が明かされていて、経年した木は余分な水分がなくなり木材内にある樹脂が結晶化し、長年の使用による振動によって分子レベルで木材の成分が整列し最適化しているというものです。
また、音質を科学的に分析した場合は、新品時に比べ音の成分が少なくなることがわかっています。音が少なくなるということは一見悪いことのようにも思えますが、元々その木材が持つ良い音の成分だけが凝縮して残り、他の余分な音の成分がなくなっていくということで木材の本来の音が際立つということになります。ギターであれば「乾いた音」という表現をすることが多いです。
卓球ラケットも打球することによって、楽器と同様に絶えず振動を木材に与えることから同様の効果が生まれている可能性が高いと思います。
よって、使い込まれたラケットはその木材の良い成分だけが残っていくため打球感がクリアになり、気持ちいいのだと考えられます。
●よくある卓球ラケットのバランスの取り方
同じ合板構成でも、上板を硬い材にし厚さを少し薄くすることで弾みとしなりのバランスを取ることが多いです。材が硬くなると少し薄くするのが基本のバランスのとり方です。
●例えば次のような代表的な合板構成ですと板厚は5.8mm~6.0mmくらいが多くなります。
上板:リンバ
添材:カーボン類
添材:リンバ
芯材:桐orアユース
添材:リンバ
添材:カーボン類
上板:リンバ
●これを以下のように上板をコトやアッシュに変えることで、板厚を5.5mm前後にすることが多いです。
上板:コトorアッシュ
添材:カーボン類
添材:リンバ
芯材:桐orアユース
添材:リンバ
添材:カーボン類
上板:コトorアッシュ
あまり打球感を変えたくなくて今お使いのラケットよりももう少し弾みが欲しい場合は、同じ合板構成で上板が硬いものを探すと良いでしょう。